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心の中のスーパービジョン(二重の思考)

タイトルの「心の中のスーパービジョン」はイギリスの精神分析家ケースメントの言葉です。

これはある意味二重の思考をしながらクライエントに合うよう練習するプロセスの一つだと思います。ほとんどの人が、一人でいて、静かなときには、自分の中で考えることができますが、人といるとなかなかしにくいものです。話をしている最中にはなおさらです。また、一人でいても、音楽に注意がいっていたり、テレビの内容に夢中になっている時もそうかもしれません。一方で、会議や講義で聞き手に回っているときはあれこれ考えたりできる人が多いのではないでしょうか?

この例の場合には、相手の言語的なことばの意味だけでなく、その場の空気の変化やその歴史性にまで注意を傾け、相手と自分の間で何が生じているかも考える精神分析の自由連想的なアプローチが念頭にありますが、専門的心理カウンセリングでは、相手と話しながら同時になんとなく並行して考えることが大切なわけです。

もちろん人はそこまで万能というか器用にはなれませんから、話を口に出しながら考えることを意味しているわけではありません。カウンセリングは比較的受けの時間が長いので、その隙間で思い巡らせたり、感じたことや記憶にあることを吟味したり、それを専門的な理解としてどう伝えるか、日常で「言うことを考えてから話す」以上には慎重に考えるわけです。

受けの時間が長いからと行って、このことが簡単なわけではないのは、臨床家のみなさんならご存知のことと思います。まず、相手の方がいっぱい喋ったり、なにか問いかけが多くてこちらもたくさん話さなければならない時もありますし、切迫した雰囲気が醸し出されているときはなかなかのプレッシャーを感じながら同時に検討しなければいけません。また、相手の方が何もそうした吟味の素材を整理して話してくれるわけではないので、それをどのように頭の中で組み立てることができるかも問われます。そして、何より、心理理解、情緒理解に結びつくとはとても思えない日常的よしなしごとを相手が話している時、はたまた断片的なことしか出てこない時、それは初級のみならず、中級の方にとっても戦慄するほどの緊張が生じるものです。

こうした技量が身につくには、それなりの年数、それなりの苦心をして研鑽することは不可欠ですが、元々こうした二重の思考が苦手な人もいますし、見聞きした範囲では、指導者が必ずしもその練習をうまく促してくれるばかりでもないようなので、そこで苦慮されている方も多いのかもしれません。

ただ、もし可能なら日常でもちょっと誰かと話している時に、内緒で練習してみてもよいかもしれませんね。(あまりそればかりに熱中すると相手に嫌われちゃうかもしれないのでご注意を!)

もう少し準備ができたら、この場を通じて、実例のいくつかもあげる予定です。